上杉鷹山の「なせばなる」
まえに「なせばなる」の歌について書いた。
そして今回藤沢周平「漆の実の実る国」という小説を読んだ。なかなかおもしろかった。
この本は上杉鷹山の藩政改革について書かれた小説である。困窮して借金だらけだった米沢藩を上杉鷹山はいかに立て直したのか、とても読み応えがあった小説であった。
ただし巻末の解説によると、この小説は藤沢周平の最後の作品であるという。そういわれてみるとこの小説の最後は尻切れトンボの印象をぬぐい得ない。藩政改革は未完のまま終わっているのである。
藤沢周平は上杉鷹山と米沢藩についてはもう一つ「幻にあらず」というタイトルの小説を書いている。
同じテーマで2度も小説に書いているということは、よほどこの主人公の上杉鷹山に惚れ込んだのか、あるいは前作が気に入らなかったのかそのいずれかであろう。こちらも今度読んでみようと思う。
もう一つこの小説に出てこないかと待ち望んでいたことがあった。それはあの有名な「なせばなる」の歌がどのような背景で詠まれたのかと言う疑問の答えをさがしながら読んだ。
そうしたら、あった、あった。ほんのわずかの記述であったが………
19歳で藩主の地位についた上杉治憲は20年後に隠居して藩主の地位を養子の治広にゆずる。そして
実子の顕孝の近臣たちに顕孝のために物語るべき7項目、物語るべからざる7項目をしめした壁書をあたえた。世子は左右にいる近臣の言行を見て育ち人となるのである。そのことに心を用いよという意味で、内容は語ってよしとする物語を孝悌忠信の話、恭敬退譲の話、壮士義武の話、諫諍論弁の話、農事耕転の話など7項目、遠慮すべき物語として財利損益の話、飲食酔飽の話、奇技淫行の話など7項目をあげ、最後は為せば成る為さねば成らぬ何事も成らぬは人の為さぬ成りけりという治憲自身の信念を託した和歌を記したものだった。
と書かれている。つまり実の息子の近臣にあててかいたものだったのである。
この小説ではちょっと当てはずれの感があるが、それにしてもなかなかすてきな言葉だなと思った。