「少年讃歌」にみる4人の少年使節たち
「少年讃歌(三浦哲郎著 文春文庫)」を読んだ。文庫本で550ペという大作でなかなか読み応えがあった。
この本の裏表紙にはこんな紹介がある。
天正8年の4月、肥前有馬の切支丹学問所に、コンスタンティノ・ドラードという名の少年がいた。彼が語る、天正遣欧使節に選ばれた日本の若者たちの苦難と驚きに満ちたローマ往復の次第。それは8年余の歳月を要した。無為に終わったかれらの青春をみごとに描破した歴史大河長編。
読んでいて、前半は航海の話しが続く。嵐の中、浅瀬に乗り上げて座礁したり、盗賊に襲われたり、船酔いに苦しんだりする記述が続き、後半はヨーロッパのあちこちの都市で最高級の歓待を受けたことが延々と続く。
そういう意味では単調な話になってしまうのだが、帰りの航海の終わりの方でマカオについたときから俄然話しがおもしろくなる。
日本からやってきたイエズス会副管区長をとおして秀吉の禁教令を知るあたりからである。
さらに、日本の切支丹諸侯救援のために軍兵と砲と軍艦を求める秘密の使命を持っていたことを千々石ミゲルが問いただすところや、この少年使節たちが見たヨーロッパはありのままの姿ではなく、つくられ飾られたものであるとミゲルが批判するくだりが出てきて、話しが俄然おもしろくなったのだが、ミゲルのその思いがどうなったのかは、かれがキリスト教を捨てたという事実を述べるだけで終わっている。ミゲルの葛藤の部分の描写が少ないのが残念である。
ヨーロッパではもとより、モザンビケでもゴアの都でも、マラッカでもこのマカオでも、それらしき(奴隷にされた)日本人は一人も見かけたことがなかった。ぱあでれ方が隠したのだ。ぱあでれ方は、自分たちにとって不都合なもの、醜いもの、我等に疑念を抱かせるようなものはすべてひた隠しにして、好都合なもの、自ら誇りうるもの、我等を驚かせ、感嘆させるに足る美しいもの、見事なものばかりを見せたのだ。P450
もう一つこの小説がおもしろいのは、遣欧使節に従者としてあるいは印刷技術を学ぶために同行したコンスタンティノ・ドラードを主人公にして書かれている点である。この人物については以前紹介したことがある。かれはこの使節団の記録係であった。
このような小説を読むとどこまでが史実でどこからがフィクションなのかが分からないのだが、天正遣欧使節の見聞記はキリシタン版の印刷物としても残っていて、この三浦哲郎氏の小説はかなりの部分がこれに依拠していると思われるのである。だからあえて、ドラードを主人公に仕立て上げているのであろう。