「わたしが一番きれいだったとき」茨木のり子
茨木のり子の詩に「わたしが一番きれいだったとき」というのがある。とても心にしみるいい詩だと思う。
そういえばこの詩の歌をもといた高校の音楽部が合唱曲として歌っていたことがある。顧問の先生に言わせると今ひとつこの詩の心境に踏み込めなかったというが………。
この詩は中学の国語の教科書にも掲載されていた。
わたしが一番きれいだったとき
茨木 のり子
わたしが一番きれいだったとき
街々はがらがら崩れていって
とんでもないところから
青空なんかが見えたりしたわたしが一番きれいだったとき
まわりの人達がたくさん死んだ
工場で 海で 名もない島で
わたしはおしゃれのきっかけを落としてしまったわたしが一番きれいだったとき
だれもやさしい贈り物を捧げてはくれなかった
男たちは挙手の礼しか知らなくて
きれいな眼差しだけを残し皆発っていったわたしが一番きれいだったとき
わたしの頭はからっぽで
わたしの心はかたくなで
手足ばかりが栗色に光ったわたしが一番きれいだったとき
わたしの国は戦争で負けた
そんな馬鹿なことってあるものか
ブラウスの腕をまくり
卑屈な町をのし歩いたわたしが一番きれいだったとき
ラジオからはジャズが溢れた
禁煙を破ったときのようにくらくらしながら
わたしは異国の甘い音楽をむさぼったわたしが一番きれいだったとき
わたしはとてもふしあわせ
わたしはとてもとんちんかん
わたしはめっぽうさびしかっただから決めた できれば長生きすることに
年とってから凄く美しい絵を描いた
フランスのルオー爺さんのように
ね
さてところで、この詩に歌が付いていたというので、その歌を探してみた。YouTube のなかに朗読はいくつかあった。
歌もあった。ひとつはアテンションプリーズとかいうグループのもの、もうひとつはワサブロウという日とのシャンソンふうの歌。たぶん後者であろう。そういえばこの歌は「日曜喫茶室」でも聞いたことがある。一度聞いたら忘れない歌である。
こういう歌を発見できる YouTube がうれしい。