「待たせられる」という使役受身形

私が日本語教室で使っている初級テキストの一番最後は「使役受身形」である。
自分の意にそぐわないことを強制的にやらされるときに使う表現である。

日本語教育の文法では、動詞は3つに分類される。
1グループ 「読む」「書く」「聞く」「話す」などの動詞。日本語文法では5段活用動詞である。
2グループ 「食べる」「着る」「見る」などの上一段活用、下一段活用動詞である。
3グループ 「する」「来る」などの変格活用 「サ変(サ行変格活用)」「カ変(カ行変格活用)」と呼んでいた。

使役受身形は
1グループ 5段活用動詞未然形+せ(使役形)+「られる(受身形)」と書いてあった。つまり、「読ませられる」「書かせられる」「聞かせられる」「またせられる」「立たせられる」である。
2グループは 上一段下一段活用動詞未然形+させ+られる
「食べさせられる」「着させられる」「見させられる」
3グループは 「来させられる」「させられる」のふたつである。

これを読んで「?」と思わないであろうか? 1グループである。このようにまったくいわないわけではないが、今はほとんど「読まされる」「書かされる」「待たされる」「立たされる」の「短縮形」の方が使われるのである。「行かせられる」というのをいわないこともないが、「行かされる」という短縮形のほうがずっとよく使われる。

私たちの教室のスーパーバイザーであるA先生にこれを聞くと「テキストのように教えてください。他の教科書も皆そうなっています。」と答えられた。
そこで私は食い下がった。「文法よりの切り口を嫌われる先生の発言とは思えない。それって文法からの切り口そのものではないですか」
すると「日本語教育何とか協会でもそう教えるように申し合わせています。そう教えてください。」と厳しくいわれてしまった。
A先生でも「日本語教育なんとか協会」の「権威」には頭が上がらないのかと思った。

そういえば「可能」の「れる・られる」も似たような表現になる。私たちが中学時代に習った文法では、1グループの5段活用動詞の可能形は「書かれる」「読まれる」「行かれる」と教わったはずだが、このテキストでは「書ける」「読める」「行ける」となっていた。つまり「短縮形」が普通になったのである。
2グループでは「食べられる」「着られる」「見られる」という表現はまだよく使われている。もっともこの動詞群は「ら抜き現象」が問題となっているグループである。「食べれる」と入力すると「ら抜き動詞」という警告が出てくるが、これもあと少し立つと「ら抜き」が普通になるのではなかろうか。
3グループは「する」の可能形は「できる」であり、「来る」は「来られる」である。

つまり、使役受身形では「待たせられる」から「待たされる」への移行はまだ十分ではなく、可能形では「書かれる」「読まれる」から「書ける」「読める」への移行は完了したと見るべきであろう。

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